骨盤の特徴|女性と男性の違いと、出産前後での違いについて
骨盤を構成する骨や筋肉そのものは、男女で同じですし、産前産後でも特に変わる事はありません。
しかし、動きの大きさ(バランス)や安定性に関しては性差があったり、女性の場合はさらに産前・産後で大きく変化します。
まずは、一般的な骨盤の構造について解説します。
骨盤を構成する骨
- 左右の腸骨(ちょうこつ)
- 仙骨(せんこつ)
この3つの骨(2種類の骨)から成り立っていて、後方では仙腸関節によって、前方では恥骨結合によって、腸骨と仙骨が関節をなしています。
骨盤の関節は、周囲の靭帯(じんたい)により強固に連結されていて、個人差はありますが3~5mm程度の僅かな可動性しかもっていません。
また、関節面が僅かに滑って動くような動き方なので、見てすぐに分かるような動きはなく、レントゲン上でも可動しているのか・していないのかを把握する事は難しいとされています。
骨盤の骨と関節をなす骨も含めて、「骨盤帯」という言い方をする場合もあります。仙骨と関節を成している「尾骨」、「第5腰椎」も合わせて骨盤と関わる骨です。
骨盤を連結する靭帯
骨盤に付着し、骨盤の強度を高める事に貢献している靭帯には以下のものがあります。
- 鼠径靱帯
- 仙結節靱帯
- 仙棘靱帯
- 前仙腸靱帯
- 腸腰靱帯
- 前縦靱帯
- 骨間仙腸靱帯
- 後仙腸靱帯
- 閉鎖膜
それぞれの靭帯についての詳しい説明は割愛しますが、骨盤は、多くの靭帯で繋ぎ合わされています。靭帯はホルモンの影響で緩くなったりしますが、これだけの靭帯が一斉に緩くなると骨盤や腰が不安定になるのも想像に難しくありません。
骨盤の構造に関わる筋肉
骨盤の骨に付着する筋肉には、以下の筋肉があります。
骨盤帯・体幹の安定に関わる筋肉や、四肢の運動に関連する筋肉が存在しています。
腹部の筋肉
- 腹直筋(ふくちょくきん)
- 内腹斜筋(ないふくしゃきん)
- 外腹斜筋(がいふくしゃきん)
- 腹横筋(ふくおうきん)
- 大腰筋(だいようきん)
背部の筋肉
- 広背筋(こうはいきん)
- 腰方形筋(ようほうけいきん)
- 大殿筋(だいでんきん)
- 胸腰筋膜(きょうようきんまく)
下肢(脚)の筋肉
- 腸骨筋(ちょうこつきん)
- 梨状筋(りじょうきん)などの深層外旋六筋(しんそうがいせんろくきん)
- ハムストリングス
- 大腿四頭筋(だいたいしとうきん)
骨盤内臓器・骨盤外臓器
骨盤内臓器は、性別によって異なります。男性だと、
- 膀胱
- 前立腺
- 精嚢
- 直腸
となっていて、女性だと、
- 膀胱
- 子宮
- 卵巣
- 卵管
- 直腸
となっています。
骨盤って動くの?骨盤の可動性ってどれくらい?
骨盤は、股関節や肩関節などとは関節の形態が異なるので、決して大きな動きのある関節ではありませんが、僅かながらの可動性を有しています。
骨盤の動きは、少し専門的な言い方になりますが、(仙骨の動きに着目して)仙骨が前かがみになるような運動を「ニューテーション」と呼び、仙骨が起き上がる(立ち上がる)ような運動を「カウンターニューテーション」と呼びます。
腰を少し反らしてグッと踏ん張るような姿勢や、お相撲さんのさんの四股を踏むような体勢が仙骨の「ニューテーション」が起こっている姿勢です。
逆に、腰が曲がって、「いわゆる悪い姿勢」で座っている時などは、カウンターニューテーションになっています。
骨盤の働きについて
体の安定性に寄与
骨盤は、身体の軸をなす部位です。
上半身の基本的な運動は、骨盤を土台にして成り立っています。
また下半身の運動としては、歩行時の安定感を作るには、体幹が安定していなければ脚を振り出せません。
身体のあらゆる運動は、骨盤や体幹部の安定性があってはじめて、達成可能な課題とされています。
衝撃の吸収
骨盤の僅かな動きは、「関節を動かす事によって何かをする。」というよりは、運動によって起こる体への衝撃を和らげるショックアブソーバー的な役割があります。
関節が完全に固定されていると、その衝撃が和らげられる事なく、骨盤内や、体幹に直に伝わります。
「安定性が重要だけど、固定されていると困る。」
骨盤は、非常に微妙なバランスを求められている関節なのです。
出産時、胎児の産道となる骨盤を広げる
これは、女性特有の生理現象ですが、出産時の胎児の産道となる骨盤を広げる事で出産をスムーズにする役割があります。
陣痛から分娩時にかけて、胎児の産道になる骨盤は 仙骨のうなずき運動(ニューテーション)により骨盤が前傾し骨盤上部の腸骨が閉じて下部の坐骨が開いてきます。
骨盤下部が開くことで産道を広げスムーズに出産できるようになります。
通常の骨盤と産後の骨盤は違う
男女での骨盤の違い
女性の骨盤腔が広いのは、胎児を宿し分娩時には胎児の産道になるため骨盤の構造そのものが開きやすくなっています。
妊婦と産後の骨盤の状態・違い
ホルモンの影響で、靭帯の緩みが変わるため、妊娠・出産によって骨盤の可動性は変わります。
リラキシンという卵胞ホルモンの一種があるのですが、このホルモンが骨盤の動きに影響しているとされています。
リラキシンが関節(骨盤の動き)に与える作用としては、骨盤の靭帯を緩める事で、その影響で可動性を生み出されます。
特に骨盤の関節を支えている靭帯をゆるめる作用があり、恥骨結合部や仙腸関節がゆるみやすいとされています。
この作用によって、出産がスムーズになると考えられています。
リラキシンの分泌時期は、
①月経前
②妊娠3ヶ月頃~産後2,3日頃まで
となっています。
一説によると、産後数ヶ月はホルモンの作用が働くと言われていますので、「産後2,3日頃まで」ではあっても、産後すぐに関節のゆるみが戻るというわけではない事に注意が必要です。
また、この緩んだ状態が持続する事によって、産後特有の慢性的な骨盤の障害(仙腸関節機能障害)を呈するリスクが高くなります。
妊産婦の腰痛がどの程度続くのかを調査した研究では、妊娠から出産によって起こった妊産婦の腰痛は、出産後1ヶ月程度で全体の80%ほどが改善していき、残りの20%が何らかの腰痛が残存したという報告があります。
この事からも、ホルモンの影響で、骨盤周囲の関節が緩くなっている状態は、個人差はあるのものの、約1ヶ月程度で改善していく考える事ができるかもしれません。