筋膜連載第2弾です。
前回は「“筋膜”はなぜ痛み治療に効果があるのか?Vol.1」にて、筋膜が着目されていった背景、画像所見の盲点と軟部組織機能障害の視点をまとめさせていただきました。
第2弾では解剖学的視点からお伝えしたいと思います。
さて、早速ですが、
”筋膜アプローチ”と聞いて、多くの療法士がイメージするのは、”筋・筋膜の硬さを伸張させる”ことだと思います。
キツくなった全身タイツを引き延ばすイメージですよね。
まず、それは違うということが証明されています。
- 筋膜の伸張は60Kg以上の力が必要(Threlkeld,1992)
- 筋膜の伸張の波及は最大10cmまで(F.H Willard,2012)
筋膜はそれほど簡単に伸びません。
そして、足首の筋膜を引っ張ったからといって、股関節の筋膜までその伸張が波及するわけでもありません。
ですが、足首の筋膜を操作して、股関節の痛みが良くなったりすることはよくあります。
それでは、何が起こっているのでしょうか?
その鍵の1つはコレです。
筋膜アプローチのターゲットである深筋膜に分布する豊富な機械的受容器が要因です。
筋膜の緊張が亢進すると、それら受容器の閾値が低下することがわかっており、より過敏な状態になるので痛みを感じやすい状態になってしまいます。
自由神経終末
ルフィニ小体
パチニ小体
筋紡錘(筋周膜内)
などが分布するため、痛みだけではなく、
- 痛みの感受性への影響(自由神経終末)
- 関節可動域への影響(パチニ・ルフィニ小体)
- 筋出力への影響(筋紡錘)
が期待できます。
このことからも、筋膜へのアプローチは、凝り固まった筋膜の柔軟性を引き延ばすのではなく、局所的に起こっている筋膜の過緊張(滑走不全)を円滑化し、機械的受容器の感受性を定常化することである。
さらに、局所的な滑走不全はどうして起こるのでしょうか?
深筋膜にはもう1つ大きな特徴があります。
それは深筋膜にはヒアルロン酸が多いという点です。
特に深筋膜と筋外膜間に最も密度が高いと言われています。
そもそも、深筋膜内の線維芽細胞で生成されているのです。
ヒアルロン酸のはたらき
- 皮膚に潤いを与える
- 筋や腱の潤滑油として滑走を助ける
- 筋繊維損傷からの回復を助ける
通常は滑走を助けているはずのヒアルロン酸はある条件で、酸化して滑走を悪くしてしまいます。
その条件とは、
- 四肢や体節の可動性低下はヒアルロン酸濃度を上昇させる (Stecco C,2011)
- 1週間以上の不動は、ヒアルロン酸濃度を上昇させる (Okita M,2004)
- 炎症組織でヒアルロン酸の増加が観察される (Cowman MK,2015)
- 損傷した骨格筋のヒアルロン酸含有量は上昇する (Torihashi,2015)
ヒアルロン酸は増えると酸化して、粘性が高まると言われています。
要は、
- オーバーユース
- 外傷
- 不動・廃用
- 手術歴
などといった身体の変化がヒアルロン酸を滑走不全を起こす原因にしてしまうのです。
(ヒアルロン酸高分子化イメージ)
最初、滑走不全を起こしたくらいでは、痛みとして現れないことも多いです。人間は代償してうまく対応する生き物で、本当にうまく助けられています。
しかし、代償を強要された他部位は、さらに過剰な運動が要求されます。
そして、代償を重ね、代償が効かなくなった時点で痛みとして現れます。
筋膜性疼痛の場合、痛い場所は結果であり、原因ではありません。
痛い場所を硬いからといってほぐしても、痛みが解決しないことが多いのはそのためです。
筋膜を機能的に評価していくと、そのヒアルロン酸の高分子化を触知することで、その最初のきっかけ(原因)となっている筋膜の滑走不全を見つけることができるのです。
そこが、筋膜アプローチは、機能的にシステマティックに評価・治療できるということが一番の強みです。
構造的に問題がない方の痛みに対して、筋膜はなぜ痛み治療に効果があるのか?の問いに対する解の部分と言えます。
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ライター/比嘉 俊文(理学療法士)