再生医療という言葉をTVのニュースなどで耳にする機会が増えてきましたが、
「なんとなく凄そうとは感じるけど、どんな治療法なのかよく分からない。」
というのが正直なところだと思います。
まだまだ、一般的な治療として普及しているわけではなく、再生医療のごく一部だけが限られた医療施設で提供されるに止まっているため、それも仕方がない事だと思います。
ただし、これからの発展が期待され、今後の医療を大きく変える事が予測される分野です。
厚労省による再生医療の定義
ポイントは「幹細胞」
厚生労働省による再生医療の定義は以下の2点です。
- 患者の体外で人工的に培養した幹細胞等を、患者の体内に移植等することで、損傷した臓器や組織を再生し、失われた人体機能を回復させる医療
- ないしは、患者の体外において幹細胞等から人工的に構築した組織を、患者の体内に移植等することで、損傷した臓器や組織を再生し、失われた人体機能を回復させる医療
(出所:厚生労働省・多能性幹細胞安全情報サイトより)
1の文章で説明しているのは、幹細胞そのものを損傷した組織や部位に移植する方法で、
2の文章で説明しているのは、幹細胞を用いて、体の外で作り上げた組織を体内に移植する方法です。
厚労省が出した再生医療の定義に明記されているように、再生医療を理解する上でキーポイントとなるのは「幹細胞」です。
幹細胞って何?
細胞には、分化の有無によって「体細胞」と「幹細胞」に分ける事ができます。
ヒトが誕生するまでには、卵子が受精し、受精卵となり細胞分裂(増殖)を繰り返す事によって「胚」になり、さらに細胞分裂を繰り返して多種多様な細胞に成長していきます。
この分裂を繰り返す事によって、筋肉や軟骨、骨、皮膚、脳、心臓、胃、大腸といった組織や臓器がつくられます。
この細胞が様々な組織や臓器に変化していくことを「分化」と言います。
この分化が完全になり、組織や臓器になった細胞を「体細胞」と呼び、まだ未分化(分化が完全ではない)の細胞を「幹細胞」と言います。
幹細胞は、これから色々な組織や臓器になれる細胞という事です。
細胞 | 説明 |
体細胞 | 完全に分化し、皮膚や血液のように組織や臓器となった細胞 |
幹細胞 | これからいろいろな組織や臓器になれる未分化な細胞 |
幹細胞の特徴
幹細胞の特徴を整理すると、体細胞にはなっていない未分化の細胞であり、体内の様々な細胞に変身する事ができる「多分化能」という特徴がある事と、
もう一点は、
幹細胞自身が、自分のコピーをつくる複製能力(自己複製能)を持っている事です。
増殖して、増えていった後、特定の細胞・組織に分化していくのが幹細胞の特徴です。
幹細胞は大きく分けると3種類
体性幹細胞 | ES細胞 | iPS細胞 | |
由来 | 人体に存在する細胞 | 受精卵が細胞分裂したもの | 体細胞に遺伝子導入(体細胞を幹細胞に戻す) |
特徴 | 分化能あり 万能型ではない |
分化能・増殖能が高い 万能型 |
分化能・増殖性が高い 万能型 |
倫理問題 | 特に大きな問題なし | 受精卵を操作するという点で問題あり | ES細胞の倫理問題をクリア |
臨床課題 | 増殖能が限定的 | ガン化の可能性あり | ガン化の可能性あり |
体性幹細胞
生体のさまざな組織にある幹細胞です。造血幹細胞・神経幹細胞・皮膚幹細胞などがあります。
骨髄由来の幹細胞から脂肪由来の幹細胞を用いる事が多くなっています。
体性幹細胞は、万能型ではありませんが、もともと体の中に存在する組織なので安全性が高いとされています。
ES細胞
受精卵が分化を始める前の段階の胚はいである胚盤胞の内部細胞塊から取り出した細胞の事です。
受精卵を操作する必要がある点で倫理的な問題を抱えていたり、後述のiPS細胞と同様に、万能型で分化能が高い反面、ガン化するリスクも含みます。
iPS細胞
山中教授がノーベル賞を受賞した事で有名になった「人工多能性幹細胞」の事です。
体細胞にいくつかの遺伝子を入れる事により、人工的に未分化な状態に逆戻りさせた幹細胞です。
ES細胞のような倫理的な問題はそれほど大きくはありませんが、ガン化するリスクは含んでいます。
幹細胞を用いた治療が少しずつ増えています。
幹細胞治療には、いくつかの方法がありますがここでは、膝に対する幹細胞治療で説明します。
例えば、腹部などの余計な脂肪組織を数ミリ摂取し幹細胞を培養します。
そして、培養された幹細胞を、痛めている膝関節内に投与します。
自己脂肪から採取→培養した幹細胞を患部に注射で注入するという治療法です。
期待できる効果としては、損傷した膝軟骨の修復に幹細胞が働き、膝軟骨が修復される事によって、膝関節機能を正常な状態に戻す事です。
この方法は、適量の幹細胞を患部に注入だけで済むので、従来の人工関節置換術などによる手術と比較すると、体への負担もかなり少なくなるというメリットもあります。